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次元が俺のもとを去ってから1ヶ月。
アイツは殺し屋家業に復帰したという。
どうやって繋ぎを取るのかまでは解らない。
だがその仕事具合は伝わってきた。
契約は絶対。
ミスはなく、確実に相手を片付ける。
依頼料は高額。仕事は確実。
警察が躍起になって探しているという。
だがそれが次元の仕事であるという証拠はどこにもない。
それどころか、どこに居るかも誰も知らない。
時折居場所がわかる場合もあるらしいが、翌日には蛻の殻。
そして代わりとでもいうように、送り込まれたのであろう、別の殺し屋の死体がそこにある。
そうしてただ死人の数が増えるにつれ、名前だけが知れ渡っていく。
裏家業の連中がアイツを探し回ってる。
依頼をしようという者と、復讐をしようという者、両方。
オレ情報を手に入れたのも、次元に繋ぎを取りたい奴が話しかけてきたからだ。
そいつがドチラの理由で次元を探していたかは知らない。
だがそいつの翌日に場所なら知っている。
オレは機嫌が悪い。
機嫌が悪くて反吐が出そうだ。
こんなときにオレに話しかけて来た奴のほうが悪い。
川に浮かんだデッカイ波紋は、もうとっくの昔に流れて消えた。
霧が出るこの街は湿度が高く、また境界が曖昧になる。
身体と空気が交じり合う。
タバコに火がつかない。
気色が悪い。
ふと顔を上げてオレは立ち止まった。
目の前に次元が立っている。
次元も立ち止まっている。
そして踵を返して駆け出した。
霧のなかを駆け抜ける。
硬質の靴音がいくつも響く。
オレは何度も手を伸ばすが掴めない。
指先が背広の背に軽く掠ったとき、オレはバランスを崩した。
歩調が崩れ、前のめりになる。
そのとき次元が振り向いた。
倒れかけたオレの目は次元の帽子を覗き込んだ。
次元は拳銃を抜いている。
次元の目はオレを見てはいない。
轟音が響いてオレは路地に倒れこむ。
次元が「なぜだ」と言った気がした。
オレが路地に倒れこんだその瞬間、オレの背後で音がした。
幾人かの男がほぼ同時に地面へと倒れこむ。
手には拳銃。
男たちから噴出した血がビシャビシャと背中にかかる。
オレの頬も少し切れた。
舌を伸ばしてそれをなめる。
次元は肩で息をしている。
そしてまた走り出す。
次元は途中ゴミ箱を蹴飛ばした。
水溜りの泥を撥ね、通りすがった人にぶつかりながら駆ける。
そしてその足は裏路地の中を彷徨いだす。
何か考えがあって道を選んでいるのではないだろう動き。
計算も思慮もない行動だ。
しかも
渾身の力を込めて飛びつく。
硬い腰と背にぶつかり、息が詰まる。
銃弾が空気を切る音が耳元でする。
狙撃されている。
場所は向かいのビルの屋上、一人。
銃弾が飛んで壁に当たる
ヘタクソだ
銃がある
「オマエが死ね」
言うと同時に心臓の真ん中を狙って、
心地よい断末魔と共に影がビルから落ちてくる。
まだ追ってどもが来るようだ。
身を隠したほうがいい。
「立て次元」と言いながら次元の背をつかんで、ビル間に連れ込んだ。
次元の背を壁に押し付け「黙れ」と言う。
男二人が入るには窮屈すぎる空間。
息を潜めるために身体を密着させ、息を殺させ、静かにさせる。
追っ手どもはまだそこいらを探索している。
両手を壁につき次元の顔を覗き込んだ。
覗き込んだ次元の顔は蒼白。
首筋には緊張からか筋が浮かび、脂汗が伝っている。
オレが「次元」と声をかけるとビクリと肩を震わせた。
身体を震わせながら身じろぎする。
なるべくオレに触れないように
距離をとろうと身体を動かそうとしているのが解る。
コイツは オレから逃げようとしているのか
コイツはオレを怖がっている
次元はオレに対して怯えている
オレから逃げようとしている
顔を背け 目を背け ただ震えて
怯えを隠すこともできず ガチガチと歯を鳴らし
泣き出すことも オレを振り払って逃げることもできず
逃げる算段もできずにいる 無様な姿で
――――ならばいっそあの橋を落としてやりたい
コイツごと その足元から全部吹き飛ばして
コイツのの可愛がっていた女をひとり
その瓦礫の中に埋めてやって
オマエがオレを見るなり逃げ出すなんて
そんなこと 許されるわけないだろう
なぁ 次元
逃げてんじゃねェよ
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